会社を長年勤めあげて受け取れる退職金。
勤続年数が長いほど、退職金は高いのが一般的。老後の生活の備えに、大きな役割を果たすことになります。
しかし実は退職金にも、税金がかかるということをご存知でしょうか?
そしてもしかしたら「余分に税金を取られていた」というリスクもあり得るのです。
このページでは退職金にかかる税金の計算方法。そして節税対策を中心に解説します。
目次
退職金とはこれまでの働きに報いる意味を込め、企業から退職者に渡されるお金のことを指します。
ただしひとつ注意すべきことは社員への給与と異なり、会社側に支払い義務はないという点。
あくまでその会社と社員との間に交わされる「契約上のルール」。
就業規則に規定が記されて初めて、会社側に支払い義務が生まれます。
よって自分が勤めている会社で退職金がもらえるかは、会社の就業規則に記された「退職金規定」を確認しましょう。
そして支払われる場合は、下記3点をチェックしてください。
退職金には2つの種類があるという点も覚えておきましょう。下記の2つです。
退職一時金は退職時に、まとめて受け取るタイプのお金。一方退職年金は定年後に少しずつ分割して、受け取ります。
それぞれ税金の扱いが異なるのがポイント。
退職一時金は「退職所得」、退職年金は「雑所得」の扱いとなるのです。
このページでは、退職一時金について解説します。
さていよいよ退職金にかかる税金の、計算方法を紹介しましょう。
退職金には所得税と住民税の2種類がかかります。
基本的に退職金は「会社から支給される慰労金」という性質のため、税制上優遇されています。
他の所得とは分離して「分離課税」として扱われるのです。そして勤務年数が長いほど、控除額が大きくなります。
下記の順番で計算してみてください。
控除額は勤続年数に応じて、算出方法が変わります。
税金がかかる対象となる「退職所得」の額を算出する際、ここで算出した控除額を差し引くのです。
勤続年数20年以下 | 勤続年数×40万円※最低でも80万円の控除 |
---|---|
勤続年数21年以上 | (勤続年数-20年)×70万円+800万円 |
勤続年数20年がひとつの節目となります。
勤続年数20年であれば800万円が控除。21年目になると870万円が控除される計算です。
たとえば22歳から65歳まで43年間同じ会社で働いていた場合は、2,410万円まで非課税になります。
ちなみに勤続年数に1年未満の端数がある時は、切り上げます。
つまり29年1か月であれば、30年として計算するのです。
退職金の金額から「退職所得控除額」を引き、残りの金額を2分の1にして算出します。
退職所得の金額=(退職金による収入額-退職所得控除額)×1/2
ここで出た額に、税率をかけて終了です。
退職所得の額により5〜40%の税率がかかります。ここでも控除がある点が特徴。
退職金で支払う所得税額=退職所得額×税率-控除額
平成29年分所得税の税額表は下記の通り(退職金にかかる税金|国税庁HPより)
退職所得額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000円から1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円から3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円から6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円から8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円から17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円から 39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円以上 | 45% | 4,796,000円 |
以上をもとに導き出された額が、退職金に支払う所得税ということになります。
後ほど実際のケーススタディを紹介しましょう。
住民税の算出方法はとてもシンプル。さきほど算出した退職所得がベースになります。
退職金で支払う住民税額=退職所得額×10%
では次に具体的な数字を挙げて算出してみます。
ある程度の目安を知るため、複数のパターンで実際に税金を算出しました。参考にしてみてください。
東京都産業労働局の「中小企業の賃金・退職金事情調査(2014年)」によると、東京都の中小企業での定年による退職金の相場は1,383.9万円とのこと。
そこで1,384万円(勤続年数は22歳から65歳までの43年間)の退職金で算出しました。
【1】退職所得控除額 | (43-20)×70万円+800万円=2,410万円 |
---|
この場合控除額が退職金額を上回るため、無課税になります。
同時に住民税も支払う必要はありません。
途中で転職し、最後の会社に20年間勤めた場合の試算です。
【1】退職所得控除額 |
20×40万円=800万円 |
---|---|
【2】退職所得額 |
(1,384万円-800万円)×1/2=292万円 |
【3】退職金にかかる所得税 |
292万円×10%-97,500円=194,500円 |
退職金にかかる住民税
退職金にかかる住民税 |
292万円×10%=292,000円
|
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日本経済団体連合会の「2014年9月度退職金・年金に関する実態調査」によると、退職金の相場は2357.7万円。
上場企業の退職金相場です。
【1】退職所得控除額 | (43-20)×70万円+800万円=2,410万円 |
---|
この場合控除額が退職金額を上回るため、無課税になります。
同時に住民税も支払う必要はありませんね。
途中で転職をして、最後の会社に20年間務めた場合のケースです。
【1】退職所得控除額 |
20×40万円=800万円 |
---|---|
【2】退職所得額 |
(2,358万円-800万円)×1/2=779万円 |
【3】退職金にかかる所得税 |
779万円×23%-636,000円=1,155,700円 |
退職金にかかる住民税
退職金にかかる住民税 |
779万円×10%=779,000円
|
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ある程度の目安。そして算出手順について理解いただけましたでしょうか。
現状で知りえる情報をもとに、ご自身の税金を算出してみてください。
退職金をもらう人の中には、役員の立場で退職される方もいることと思います。
それでは役員の場合、税金はどのようになるのでしょうか?
まず基本的に算出方法は一般社員の時と同じです。
しかしひとつだけ、例外が存在します。
それは退職所得の計算時において。
通常は2分の1掛けになりますが「勤続年数5年以下の法人役員等の退職金」の場合、この掛けが適用されません。
一般退職手当 | (退職金による収入額-退職所得控除額)×1/2 |
---|---|
特定役員退職手当(※) | (退職金による収入額-退職所得控除額) |
※勤続年数5年以下の法人役員等の退職金
退職所得が大きいということは、当然税金も増えることになります。
特定役員に対する処遇は、平成25年に変更されました。
退職金の税制上の優遇措置を利用して所得税額を低く抑えようとする行為を、回避する狙いがあります。
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退職金を受け取る際に、必ず実施しなければいけないことがあります。
それは会社に「退職所得の受給に関する申告書」という書類を提出すること。
この書類を出していない場合、所得税を支払いすぎることになってしまうのです。
「退職所得の受給に関する申告書」の手続きは、基本的に会社が行ってくれるのが一般的。
しかし経理にうとい会社や忙しくて事務が機能していない会社では、対応していない所もあるので注意しましょう。
必ず確認をするようにしてください。
申告をしていない場合退職金ではなく、普通の給料として源泉徴収されてしまいます。
そこで「勤続20年、退職金2000万円」で申告書の提出あり・なしの税金を比較してみました。
【1】退職所得控除額 |
20×40万円=800万円 |
---|---|
【2】退職所得額 |
(2,000万円-800万円)×1/2=600万円 |
【3】退職金にかかる所得税 |
600万円×20%-427,500円=772,500円 |
源泉徴収税 | 2,000万円×20%=約400万円(正確には20.42%) |
---|
差額にして3,227,500円。あまりにも大きな額です。
大きな損失といえますね。
退職金にともない支払った税金が、確定申告をすることで戻るケースがあります。
当てはまる場合は必ず申告をして、還付金を受け取りましょう。
上述したように「退職所得の受給に関する申告書」を出していないと、通常の給料として扱われてしまいます。
退職金から引かれた源泉徴収額を確認して、所得税が20%引かれていないか確認しましょう。
引かれていた場合は確定申告をすることで、払いすぎた税金を払い戻すことができます。
年の途中で退職した場合、その年の所得が小さくなります。
そのため社会保険料控除や生命保険料控除、配偶者控除、扶養控除、基礎控除等の所得控除といった控除が全て適用できないケースがあるのです。
そこで退職所得を含めて、確定申告を行います。
源泉徴収税の還付をフルで受け取る可能性が高くなるのです。
不動産投資などの事業をしており、赤字になっている方に有効。
確定申告で退職所得と、損益通算する方法です。
最初に事業所得や不動産所得の赤字を給与所得、配当所得、雑所得とで損益通算。
それでも損益通算しきれない赤字がある場合に、退職所得と損益通算をするのです。
また確定申告した所得は、次年度の住民税や社会保険料の算定基準になります。
翌年の税金軽減のためにも、効果がありますよ。
退職金に関する税金対策で、裏技ともいえる方法を2つ紹介します。こちらも参考にしてみてください。
おさらいですが退職金にかかる税金は勤続年数が長いほど、控除額が大きくなります。
そして勤続年数に1年未満の端数がある時は、1年として計算するのがルール。
よってたとえば勤続20年の人が12月に退職した場合は「勤続20年」。
しかし1月に退職すると「勤続21年」という扱いになるのです。
退職時期が決まっている定年退職の場合は難しいかもしれませんが、自己都合での退職であれば実施できます。
還付加算金とは税金の納めすぎにより還付金が発生した場合、その還付金につける利息相当分のことを指します。
還付加算金の率は年次によって異なり、平成30年1月1日からは1.6%です。
そして還付される税金が確定申告の締め切りの3月15日を過ぎれば、過ぎた分だけ1.6%の利子がつきます。
そこで3月16日に確定申告をするという裏技です。
還付の確定申告は3月15日まで、という決まりはありません。5年以内であれば時期はいつでもよいのです。
そして税務署は3月15日までに提出された申告書を、先に処理します。
3月16日以降に提出された申告書は、後回しにされるのです。
よって税務署の手続きが遅れる可能性が高くなり、その分還付加算金が増えるということになります。
退職金について知っているのと知らないのとでは、税金も大きく異なるという点がおわかりいただけたと思います。
税務署の方は確定申告をとくに進めていません。
しかし確定申告をすれば、還付金が戻る確率はかなり高い。
一度税理士の方に相談してみるのもよいですね。
このページを読んだ皆さんはしっかりと税金対策を行って、第2の人生の備えをするようにしましょう。
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